「作曲家は意外に賑やかでカラフルな景色を見ている」インタビュー:作曲家 井澗昌樹さん






吹奏楽業界でも人気の作曲家の一人、井澗昌樹さん。公益財団法人パブリックリソース財団 コロナ給付金寄付プロジェクトにも作曲家として採択された井澗昌樹さんに、色々とお話を伺いました。お会いしたことがない限りはなかなか謎めいた雰囲気のある井澗さん。どんなお話が聞けるのでしょうか。


―まず初めに、作編曲家を志したきっかけを教えて下さい。

子どもの頃、ピアノを習っていました。

「なんでこの音なんだろう・・」「こっちの音の方が良いんじゃないか・・」なんて不遜なことを考えていたものです。

良い生徒ではなかったと思います。

中学の頃には自然と作曲に興味が移っていました。

とは言え、「作曲家になりたい」という強い欲求があった訳ではなく、いくつかの決断の積み重ねであったと思います。

―学生時代(10代~20代頃)はどのような学生時代を送られましたか?またその頃で特に想い出深いエピソードなどございましたらお伺いできますでしょうか。

中学時代はTHE YELLOW MONKEYに痺れ、高校時代はヘヴィメタルに傾倒。黎明期であったシンフォニックメタルは特にハマりましたね、今でもよく聞きます。

大学時代はようよう作曲の勉強に没頭・・と言いたいところですが、むしろピアノの練習に精を出しており、一日中ピアノを弾いていました。

夏休みなんかは大学の練習室に冷房が入っておらず、パンツ一丁でピアノを弾いていたことは中々想い出深いです。

後はとにかく本ばかり読んでいました。やはり(作曲専攻生として)良い学生ではなかったと思います。

―作曲を学んでいた頃の印象的なエピソードがあれば教えて下さい。

一つの事象を理解するごとに、世界が広がっていく様が毎回新鮮で、本当にワクワクした日々でした。

同時に、この世界は途方もなく大きいものだと気付くことでもある訳で、よく心が折れなかったなと思いますねぇ・・印象的というのは違うかもしれませんが。

今もそんな毎日です。

―作曲家として現在につながる転機となった作品やエピソードがあれば教えて下さい。

私は吹奏楽に携わった経験がありませんでした。大学院修了間際に書いた「火の断章」が2008年全日本吹奏楽コンクール課題曲に選ばれたことで、突如としてこの世界が目の前に広がったのです。

あの時に選外であったならば、今のような関わり合いには決してならなかっただろうと思いますので、間違いなく転機となった作品ということになりましょう。

公募の締切まで時間がなくて、三日間徹夜したのは人生で一度っきりです。

―作曲をする際のインスピレーションをどのように得ているか、またそれをアウトプットする際に組み込んでいる手順などがあれば教えて下さい。

何か意識して取り入れようとしていることはありませんが、やはりどのようなジャンルであれ、第一線にいる方の作品やパフォーマンスは刺激になりますね。

高い完成度を誇る創作物に触れた時、その想像力やエネルギーの指向性について考えるようにしています。

自分の作品も、他の方にとってそのような影響を持つものであればと願っています。

―作品それぞれにテーマがあるとは思いますが、これまでの作品全体を通じて、表現者として伝えたいことについて教えて下さい。

私が感じたものが全てです。

同時に、演奏してくださる方にとっても聞いてくださる方にとっても、皆さまが感じたものそれぞれが全てです。

私の体験をなぞっていただく必要はございません。

―ご自身の作曲または編曲に強く影響を受けた他の作曲家や編曲家の作品があれば、それについてどのような影響を受けたのか教えて下さい。

クラシックの作曲家としては、ブラームス、松村禎三さん、そしてスクリャービンに心酔しています。

ブラームス作品に滲み出る「寂しさ」という感情、松村禎三が音響化した強靭な精神、いずれも生きるとは何かを考えずにはいられない音楽です。

スクリャービンは変態っぷりがたまりませんね。これもまた生きること。

公益財団法人パブリックリソース財団 コロナ給付金寄付プロジェクトの第一回に作曲家として採択され、ウェブサイトでも「アマチュア奏者の独奏曲のレパートリー拡充を図る」とおっしゃっていますが、これに関わる作品について、また今後の展開についてのお考えをお伺いできますでしょうか。

難解な作品を書く現代音楽の作曲家であっても、歌やピアノには少々趣の異なった顔を見せることがあるのですが、管弦打にはまず見せない・・

吹奏楽は細かくグレードを設定し、様々な奏者・場面を想定した楽譜が用意されているのに、それを構成する管打楽器の独奏曲になった途端、とても易しいものか、べらぼうに難しいものかの二択になり、中間に位置するものが極端に少ないとは以前から思っていました。

様々なご縁があり、作曲家として吹奏楽との関わりを持たせて頂いている身なのですから、いつかこの隙間を少しでも埋められないものか・・いつかいつかでは永遠にその時は来ませんので、折角の機会を頂いた今、積極的に取り組もうと思いました。

―将来の目標について教えてください。

少しでも良い曲を書きたい。その一言に尽きます。そして、100年後200年後に一曲でも残っていたら・・と夢見ています。

―井澗さんの作品を今後演奏される演奏者の方に伝えたいメッセージをお願いします。

勇気を持って、ご自身がお感じになられたことを信じていただければと思います。

―最後に、作編曲家志望の方に向けてアドバイスをお願いします。

想像力とは感受性という枠の中に位置する能力の一つでしょう。積極的に世界に触れてください。作曲行為は孤独な作業ですが、作曲家は意外に賑やかでカラフルな景色を見ていると思います。


以上、井澗昌樹さんへのインタビューでした。僕との共通点(THE YELLOW MONKEY)があって嬉しかったですが、それはさておき興味深いお話が聞けたのではないでしょうか。皆様もぜひ多くの井澗作品に触れてみて下さい。

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(取材・文:梅本周平/Wind Band Press/ONSA)


【井澗昌樹氏 プロフィール】

大阪教育大学教養学科芸術専攻音楽コース卒業、同大学大学院芸術文化専攻修了。

作曲を澤田博、北川文雄の両氏に師事。現代音楽、吹奏楽、舞台音楽を中心に作編曲活動を行っている。特に吹奏楽の分野においては 2008 年度全日本吹奏楽コンクール課題曲である「火の断章」をはじめとして多くの作品が出版・録音されている他、客演指揮や講習、各種コンクールの審査員として幅広く携わる。

近作として、陸上自衛隊の委嘱によって作曲された行進曲「桜雲」は、京都で開催された天皇陛下御即位30年記念式典において演奏された。

関西現代音楽交流協会、21世紀の吹奏楽“響宴”、各会員。




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